【腰椎椎間板ヘルニア】〜入院21日目 60度制限〜

手術を終えて長い夜を苦しみながらも乗り切ったのが前回まで。


7月23日(火)ベッド上安静60度

手術から一夜明けて、8時になって朝食が出された。夜勤で一夜をともにした男性看護師が、ベッドを少し上げてくれる。30度ぐらいか。「60度まで上げられるんですが、最初だからこのぐらいにしておきましょう」と看護師。

そう、手術の翌日のこの日は、医師の指示により私には「ベッド上安静、60度」の制限がかけられているのだ。60度は食事ときなどにベッドを傾けていい角度のこと。つまり上体を完全に起こしてはダメということである。もちろん立つことは論外で、トイレには行けない。おしっこはバルーンが入っているので問題ないが、大のほうはもよおしたら挿しこみ便器で対応する以外に選択肢がない状況である。

酸素マスクなどが外れて、飲み物を飲んで、食事をしてようやく生き返った気分だったが、ベッド上安静というの状態もなかなかつらい。やっと釈放されたと思ったら、無罪放免とはいかず、監視付きの仮釈放のような気分である。なにしろ寝返りを打つたびに腰がズキズキ痛むのだ。この日は終日、体を起こしたくてしかたがなかった。

余談だが、手術の後の苦しさというのも人それぞれのようで、私より後に複雑骨折で入院し、私より先に手術を終えたトラック野郎の50歳ぐらいの方は、手術室から戻ってくるとすぐに「おしっこがしたい」と家族に訴えていた。当然バルーンが入っているので、おしっこは溜まっていないのだが、バルーンが入っていることで膀胱が刺激されて尿意を感じることがあるのだ。これは私も同様で、バルーンを入れてから違和感になれるまでの12時間ぐらいは私も軽い尿意を常に感じていた。

トラックの方の場合は、その尿意がなによりつらいようで、家族が帰ったあと、深夜に看護師が見回りに来て「苦しくないですか?気持ち悪くないですか?」と聞かれた際にも「おしっこが漏れそう!」と強く訴えていた。看護師が「管が入ってるから、おしっこはちゃんと出てますよ。漏れないから大丈夫」と言われても、「でもおしっこがしたくて我慢できない!なんとかして」と譲らない。やむを得ず看護師が「じゃあ、管を抜いて、おしっこはしびんでします?大変だけどできますか?」と言うと、1も2もなく「しびんがいい。管抜いて!」と頼んで、結局22時ぐらいにはバルーンを抜いてもらっていた。

同じ部屋でそのやりとりを聞いていた私は、バルーンがそんなに嫌なのか、と不思議だったが、その方は手術前の足を固定されて動けない数日間もしびんでほいほいおしっこをしていた。ついでに指し込み便器での大便もさほど苦も無くやりとげていた強者だ。そういう人にとっては、バルーンのほうがつらいのかもしれない。

ちなみにこのトラックの方とは別に、学校の先生という方が私の隣にいて、骨折の手術の前日に「どうせ手術で入れるんだし、いまからバルーンにしちゃいましょう」という看護師の提案で、バルーンを入れられていたが、もう最初から「痛い!いってててー!」と大騒ぎ。先生だけに普段もの静かなタイプなのだが、このときばかりは痛みを派手に訴えていた。私も入院2日目にバルーンを入れたが、こんなに叫ぶような痛みはまったく感じなかったので、こればかりは人それぞれとしか言えないようだ。

だいぶ話がそれてしまったが、とにかくこの日は、腰の鈍い痛みと体を起こしたい欲求と戦いながら過ごした一日だった。ちなみに、手術後に強く感じていた左足ひざ裏の痛みは、朝までは続いていたが、この日の途中でいつのまにか消えていた。たぶん手術の際に神経をいじったせいで生じた一過性の痛みだったのだろう。

肝心の坐骨神経痛が治ったかどうかは、回診に来た整形外科部長や看護師にも聞かれたが、正直なところ立ってみてカラータイマーを作動させてみないと、治ったのかどうか分からない。元々ベッド上で安静にしている限りは痛みはほとんどなかったのだ。ただ、安静時にも感じていた左足の指先や甲側のしびれ感はなくなっていたので、治っている手応えはそれなりにはあった。

手術で神経を圧迫していたヘルニアを摘出してしまったのだから、当然治るように思うだろうが、実はそうでもないらしい。神経というのは圧迫されて炎症を起こしているだけなら、元に戻るが、物理的に傷ついてしまうともう治らないのだ。事故などで下半身不随や、首から下の全身不随になってしまう人がいるのも、神経が再生しないからである。ヘルニアの場合も、圧迫することで僅かながら神経を傷つけてしまうことがあり、そうなるとヘルニアを摘出しても、一部の坐骨神経痛の症状が一生残ってしまうこともあるという。

ということで、私の坐骨神経痛が消えたのかどうかは、ベッドから起き上がれる翌日まで分からないという結論になった。